10年くらい第1部しか読んでなかった『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズを読破した

色々あったが、いや良かった。10年くらい前に第1作だけ読んでた『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズをこのたび読破したんですよ。

この作品を初めて知ったのは確かウィキペディアの珍記事一覧みたいなのを見てた時だったか。これね。

 

生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え - Wikipedia

これを初めて知った時は「なんだこの作品は……」と呆気に取られたっけな。それで興味が湧いて読みました。それが10年……10年くらい前? そんなに前か? でも5年より前だったと思うな。ツイッターに読んだ記録が書かれてなかったし。

まあ仮に10年としておきましょう。私は『銀河ヒッチハイクガイド』を読んだ。が、続編は読まなかったんだよな。なんでかわからんが。

 

が、ここ数日でふと存在を思い出してまとめて読んじゃいました。

 

ひとつは「マシーナリーとも子って銀河ヒッチハイクガイドっぽいよな」という意見を見たこと。これはとくに自分では意識してなかったけど言われてみるとかなりの得心があった。確かにそうかもしれん。私は同作品の「SFっぽいことをやっている……いや間違いなくやっているがすさまじくちゃらんぽらん」「意外と世の中は適当」「地球の常識は宇宙の非常識」的な作り方にめちゃめちゃ感銘を受けたし、あのユーモア文は大好きだ。だからとくに意識してなかったけど多分めちゃめちゃに影響を受けてるんだろうな。と思って再読したくなった。

そしてもうひとつの理由は、最近読んだ『ゼロからトースターを作ってみた結果』という本に、『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズからの引用があったから……というもの。この本は「なるべく原材料からトースターを作ってみよう」という本なんだけど、そのきっかけが『銀河〜』シリーズ第5作「ほとんど無害」に登場する以下の文なんだよね。

どれひとつ原理のわかるものがない 。つくることができない 。自分ひとりではト ースタ ーひとつ組み立てられない 。サンドイッチなら作れるが 、それだけだ 。彼の技能にはあまり需要があるとは言えなかった 。

この文章を読んで「なるほど確かに」と思うと同時に「そういえば第1作しか読んでねーな」と思い出した。このふたつの出来事があって、「じゃあ読んでみますか全シリーズ」となったわけだな。

というわけで読破記録を以下に示す。今回の記事はどっちかというと読んだことない人に読んでほしい系の記事なので、なるたけネタバレは控えめにしておく。でもシリーズものだし、ネタバレを完全に避けてしまおうとするとナンノブマイビジネス*1になりかねないのでうっすらとネタバレはします。興を削がないよう気を遣いつつ。

でもネタバレ無理度は個人個人の尺度なので気にしない人だけ読んでくれ。

 

 

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

 

 

シリーズ第1作にして、全巻読んで改めて振り返るとやはりこの本がいちばんおもしろいんじゃないか? と思えるまさに傑作。

高速道路工事のために自宅を破壊されそうになっている主人公、アーサー・デント。工事業者は「前から告知書を貼ってあった*2」と言って工事を断行しようとする。と、そんなふうにワヤワヤやってる間に宇宙の工事屋が超空間高速道路を建設しに地球を破壊しにやってくる。当然地球上は大パニックになるのだが、その工事屋……ヴォゴン人はこう言い放つ。

「いまごろ大騒ぎしてなんになる 。設計図も破壊命令も 、最寄りの土木建設課出張所に貼り出してあっただろう 。アルファ ・ケンタウリの出張所に地球年にして五十年も前から出てたんだから 、正式に不服申立をする時間はいくらでもあったはずだ 。いまごろ文句を言うのはいくらなんでも遅すぎる 」

……と、終始こんな調子でダラダラとSF・どうでもいいことがスケールがでかいんだが小さいんだかよくわからない感じでガンガン進んでいくのが『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズだ。

いや〜たまらない。最高。わけのわからない銀河の常識を脳にぶち込まれながら読み進めるのが本当に楽しい。それでいて、本作は意外とお話しとしてはコンパクトに「地球って結局なんだったの?」という感じにまとまっているのが良い。とても完成度が高いんだよな。

そして登場人物の魅力がものすごい。基本メンバーはとにかくうだつが上がらず運が悪いイギリス人のアーサー・デント。アーサーの友人で、実はペテルギウス人のフォード・プリーフェクト。ふたつの頭と3つの腕を持つ激エキセントリックな正確の銀河帝国大統領ゼイフォード・ビーブルブロックス。アーサーと同様数少ない地球人の生き残りのトリリアン。さらに超優秀な頭脳を持ちながら鬱病を患っているロボットのマーヴィン。この5人が本シリーズのレギュラーメンバーなわけだが、言うなれば究極的には『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズというのはこいつらの生き方・言動がおもしろいだけのシリーズです。とくにマーヴィンの魅力はすさまじい。

「でも、 重度鬱病のロボットなんか連れていって なんになるんだ?」 「あなたは自分にも悩みがあるとお思いでしょう」 マーヴィンは、いま中身が入ったばかりの棺桶に 向かって話すような声で言った。 「もしもあなた自身が、重度鬱病のロボットだったらどうします? いえいえ、答えて くださらなくてけっこう。 わたしは人間より五万倍も知能が高いのに、そのわたしにさえ答えがわからないんですから。人間のレベルに落としてものを考えようとすると、それだけで頭痛がします」

完全にこじらせていてウザすぎるロボットなのだが、不思議と愛嬌がある。この第1作めクライマックスのマーヴィンの活躍は全巻読み終えたあとでもめちゃめちゃに良い。こういう話を作ってみてぇけどまぁムリだな、という具合の精神状態に陥らせてもらえるとにかく楽しい本。これ1冊だけ読むならサックリ読めるので、まずはまぁ読んでみてほしいね。

 

 

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

 

 シリーズ2作目。前作でひょんなことから集合した5人組が、こんどは離れ離れになっていろいろやる話。

そもそも本シリーズはラジオドラマが原作で、小説はそのノベライズという形態らしく、本作もそもそもあったラジオドラマを再構成し、前作といい感じに分けつつアレンジしつつみたいな作り方だったらしい。ふーん。

さて超傑作だった前作に比べると本作は若干トーンダウンしてるなぁ~というのは正直ある。相変わらずおもしろいんだけどね。

前作がめちゃめちゃなことをやりつつお話が収束していく感じがおもしろかったのに比べると、今作はちょっとガチャガチャしっぱなしな印象。いろんなプロットが散らばってる感じなんだよね。だからひとつひとつはなんとなくおもしろいんだけど、読み終えたあとに思い出そうとすると「……で、どんなお話だったんだっけ?」ってちょっとなっちゃうのが残念かな。前作から引っ張り続けた伏線が回収されたりとかはあるんだけど、うーむ。

ただ途中結成されるゼイフォードとマーヴィンのコンビがなんだか妙にかわいらしいのと、ラストのちょっと寂しげで「どうなっちゃうんだろうな……」って読んでて途方にくれちゃう感じはとても心に残る。

 

 

宇宙クリケット大戦争 (河出文庫)

宇宙クリケット大戦争 (河出文庫)

 

 シリーズ3作目にして最初の計画では最終作だったはずの作品。

なんだけど、ちゃらんぽらんだった過去作に比べるといちおう「宇宙を救うぞ!!!」という大義名分がある異色作であり、なんか読んでて不思議な感じがする本。と、いうのももともと『ドクター・フー』向けに書いてたお話を再構成した作品なんだと。

物語の大枠は「地球のスポーツクリケットは、実は虐殺軍団クリキット人との戦争の記憶が遺伝されて表されたものであり、全宇宙から野蛮と思われている。ところでそのクリキット人が復活しそうであり、宇宙が滅びそうなのでナントカしよう」というもの。

個人的に「物語を導ける老人役だから」という理由で1作め以来に引っ張り出されるスラーティバーファーストが、適切な配置とは思えずそこが不満。それ以外は、過去2作を踏まえると「逆に変な話だなあ」とは思うもののけっこうまとまった話です。

とくに「マーヴィンとマットレスのエピソード」「不死人ワウバッガー」「輪廻転生してはアーサーにひどいめに遭わされるアグラジャッグ」などのおもしろエピソードがガシガシ攻めてきて最高。ワウバッガーはマジですごいキャラクター造形だぜ。以下wikipediaより引用。

宇宙には不老不死の男がいる。不老不死故全てに飽きてしまい、ついには全生命体を逆怨みするようになる。それ以来宇宙を飛び回っては見つけた生命体に「おまえは馬鹿だ」と罵っている。彼の目標は全生命体を罵ること。
しかも彼はアルファベット順に罵ろうと計画している。「生命体は生まれたり死んだりしてるんだからそんなの不可能だ」と彼に意見すると、彼は答えて言う:「人間は夢を持っちゃいけませんかね?」

どういう頭していたらこんなお話思いつくんだろうな……。すごい。

 

 

 

さようなら、いままで魚をありがとう (河出文庫)

さようなら、いままで魚をありがとう (河出文庫)

 

 前作の感想を書く際に「前2作を踏まえると異色作!!!」と言ったけど実はいちばん異色なのはこの作品で、まず宇宙があまり出てこないでほとんどのお話が地球で展開される。マジかよ。銀河をまたにかけるSFじゃないのかよ!

しかもお話はラブストーリーなんだよ。どうした?

で、おもしろくないのかというと……おもしろい! お話としてかなりまとまってる。第1作のような「とにかく支離滅裂で頭がおかしいお話!」という感じはナリを潜めてるんだけども、純粋にこれまでのシリーズの延長線として、「たまにはこんなエピソードがあってもいいんじゃない?」というストーリーに仕上がっている。

なにより、主人公でありながら常に不遇だったアーサーにようやく幸せが訪れ、まがりなりにも成長した姿を見せてくれるのがうれしい。反面、ゼイフォードは前作の段階でもやることが終わってしまったせいかかなり出番が少なくなってしまっていましたが今作から完全に空気になります。

なにはともあれ全体的にほっこりとさせられるいいお話。これまで魅力的な鬱病を見せてくれたマーヴィンも、本作でついに……。その、とても心に残る活躍を見せてくれる。本当にいい。『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズで泣きそうにさせられるとはね。

 

 

ほとんど無害 (河出文庫)

ほとんど無害 (河出文庫)

 

 シリーズ、一応の完結作。

これまた過去作と趣を異にしており、『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズにしては緊張感があり、ちょっと陰湿ともいえる展開を見せるお話。

アーサーは前作でいい感じになった女性と別離れるハメになってしまい宇宙を放浪。いっぽうフォードは、買収され別物となってしまった『銀河ヒッチハイクガイド』編集部に立ち向かう。そしてパラレルワールドのトリリアンは……と複数の縦糸が伸びていき、やがて一本に紡ぎあげられていくという構成はシリーズ中いちばん見事に出来ている。お話の内容は「そりゃこんなの賛否両論になるわ」って感じなんだけど、とにかく小説としての作りはいちばん凝っていて、おもしろい。アーサーが引き続き、平穏な生活を手に入れて比較的充足した日々を手に入れているのもうれしい。

そしてなによりも本作で注目すべきなのは、唐突に登場するアーサーの娘、ランダム。

 

不機嫌で 、怒りっぽくて 、古生代に行って遊びたがり 、四六時中重力をがまんしなくてはならない理由を理解せず 、ついてくるなと太陽に向かって怒鳴るだけではあきたらず 、ランダムは彼の肉切りナイフで石ころをほじくり 、変な目で見ていたと言ってピッカ鳥にその石を投げつけてくれたのだ。

このランダム、はっきりいってヒステリー持ちの厄介な性格でガンガントラブルを巻き起こしては読者のヘイトを稼いでいくイヤ~な感じのキャラなんだけど……キャラなんだけどさ……その……めちゃめちゃかわいいんだよね……。

いや、ちょっとビックリした。読んでて間違いなくウザキャラなんだけどすげ~~~~~惹かれてしまった。すげえかわいい。かわいいよランダム……。

めちゃめちゃイヤなやつなんだけど、なんかその「性格が捻じくれてしまった」というのもちゃんと納得できる理由で、行動ひとつひとつもなんか理解できるんだよ。だからそんなに憎たらしくなくて……なんか愛せてしまう。なによりも突然父と娘、ということが判明したアーサーとの邂逅のシーンがとてもいい。

 途方にくれていないふりをしてもしかたがないと思った。歩いていって、両腕に抱き寄せた。「愛してるって言えたらいいんだけど」彼は言った。「ごめんよ。なにしろいま会ったばっかりだもんな。でも何分かすれば会ったばっかりじゃなくなるから」

 

このアーサーの、父親を演じたほうが、愛してると言った方がいいんだろうけど実際問題それはムリだし、でもなんとかがんばってみようかという背伸びしない感じがとてもいい。1冊目を読んだときはこんなにアーサーが好きになるなんて思わなかったよ。確実にここまでの積み重ねがあって、このシーンがめちゃめちゃ魅力的になっている。

そしてアーサーにめちゃめちゃ感情移入してしまった結果、ランダムに愛情を覚えてしまうというつくりになってるんだこの本は。恐ろしい。そう、ランダムを見ていると娘のような感情が湧いてくる。かわいい娘を、どうすればいいのか。この子を幸せにするためにはどうすればいいのかというのが保護者目線で感情湧いてくる。この私が魅力的な女キャラクターを見つけて、えっち目線でなく保護者目線を得てしまうなんて……。

「もう一時間以上も見てるね」アーサーが静かな声で言った。 「うん」とランダム。「この大きな針がぐるっとまわったら、一時間だよね。そうだよね」 「そうだよ」 「それじゃ、これを見はじめてから、一時間と、十七……十七分経ったんだね」

なにがうれしいのか、ランダムは心からうれしそうににっこりした。わずかに身じろぎして、ほんのちょっとアーサーの腕に身を寄せた。この何週間かアーサーの胸に閉じ込められていたため息が、小さく抜けていった。

オゲッッッゥ!!!!! かわいい。吐きそうだよ。吐いちゃった。

散々かわいくない娘、という描写が続きまくるので、この父に懐いているという描写で死ぬほど心が暖かくなってしまう。すばらしい。もっと早く読んでおけばよかった。こんなにかわいいキャラクターが登場するとは……。

そして本作はラストで……正直なところバッドエンド的なものを迎えます。そのラストは正直、哀しい。哀しいんだが第1作から歩んできた道を踏まえると美しくもあり、なんだか無碍に出来ない良さがあります。哀しいんだけども。

そして作者のダグラス・アダムスはこのあと亡くなってしまうのだった。

 

新 銀河ヒッチハイク・ガイド 上 (河出文庫)

新 銀河ヒッチハイク・ガイド 上 (河出文庫)

 

 

 

新 銀河ヒッチハイク・ガイド 下 (河出文庫)

新 銀河ヒッチハイク・ガイド 下 (河出文庫)

 

 『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズは完結した! 作者も鬼籍に入った! 続きなんか読めるはずがない! でも先述の通りシリーズ完結編はあんまりと言えばあんまり、なバッドエンドを迎えてしまったためファンからの「救いを!」の声が多く寄せられました。

その結果、オーエン・コルファーによって書かれた公式の続編がこの「新 銀河ヒッチハイクガイド」。原題は「AND ANOTHER THING...(もうひとつ言いたいことが……)」で、冒頭にも「このお話は付録みたいなもんである」と書かれてたり、コルファーさんは本作を執筆するにあたってめちゃめちゃ謙虚に振る舞っているのだが、そのじつ本シリーズのすさまじい勢いのファンでもあったそうで、全体的に愛と研究心に溢れた一作となっており、しかもお話の完成度がすんげ~高く、そのうえで第1作を彷彿とさせるハチャメチャ、ドタバタぶりまで出してくるという「よくこんな形で別人による続編が出せたな」と関心してしまうお話がこの「新 銀河ヒッチハイクガイド」だ。

なによりも、前作「ほとんど無害」の完膚無きまでのバッドエンドをなかったことにせず、そこからどうみんなを救えばいいのか? というのを考えめぐらせてすべてを肯定しているのがすばらしい。そのうえで最終的にはすべての登場人物がなんとなく幸せな着地を見せるのがシリーズファンにはうれしくなってしまうんだよな。

この本はもはや福祉です。福祉に近い。

反面、やたらと「ガイドによる注──」と用語解説的などうでもいい文章が挟まり、これはハッキリと興が削がれ、流れがブッタ切られてイマイチ。マジでものすげー頻度で入るんだよ。そのうえこの脚注についてはそんなにおもしろくないんだよな。これがなくなればもっとコンパクトに収まって完成度も高まったんじゃないかなあと思ってしまうほど。

でも、本当にシリーズをものすごい研究してるのがわかるし、愛に溢れてるし、ものすごい出来がよくて、あとランダムがすげーかわいい。そんな続編です。おすすめ。

彼は身構えた。辛辣な皮肉でめった打ちにされると思ったのだが、ランダムは急に人が変わったように愛想よくなった。 「ほんとにそうだね、フォード。いいこと言うじゃん。自分の部屋に帰ってこの塵を洗い流して、どうしたら人を批判しないでいられるかまじめに考えてみるよ」 

かわいい……。あ、これはこのあとろくでもないことを考えているというのが明らかになるシーンです。でもかわいい。

 

あと、おもしろかったけどワウバッガーのキャラクターだけは解釈違いです。

 

まとめ

 

ランダムがすげーかわいい。

 

ランダムがすごいかわいかったです、ということだけ書きたくてブログにしようと思った。

 

 

 実は映画版を見たことがないんだが見てみようかねえ。

 

*1:夜に影を探すようなもの

*2:ただしとてもわかりにくい場所に、小さく