しょうもないもの
バイナリ腕時計というものを買った。
これは文字盤ではなくて二進数で時間を表す時計で、上の4つのLEDは向かって左から数字の8、4、2、1を表し、下の6つのLEDは向かって左から数字の32、16、8、4、2、1を表している。
これは9時5分。
スマホが普及した現代社会において、腕時計を使うメリットははすぐに時間を見れることだ。
スマホはポケットから取り出し、電源を入れないと時間が見れない。
が、腕時計は腕を目の前に掲げるだけで時間が確認できる。
そこでいうとこの腕時計はクソである。
時間がパッと見でわかりにくいのはもちろん、さらに信じられないことに
ふだんは非点灯なのである。
時間を確認するには横のリューズのようなボタンを押し、点灯させなければならない。
点灯させたところでこれなんだよな。
6時3分!
時間の読み取り自体もパッと行なえず、少し考えなければならないのが難点だ。
さらにこの時計を使っていれば日頃から二進数に慣れて頭が良くなるみたいなことも絶対になく、単にこの時計を読みなれるだけである。
なんだこいつは。
でもこいつは素晴らしい腕時計だ。
なんといってもしょうもない、役に立たないというのが素晴らしい。
世の中には役に立つ道具や素晴らしい作品が山のようにある。それらはすべてそれらのプロダクトに関わったスタッフの方々が粉骨砕身、がんばりにがんばり抜いて作り上げた珠玉の製品なのである。
企画を立案し、製造や販売の計画を緻密に立て、然るべきところに発注をし、それぞれの担当部署ががんばり、工夫をし、汗と涙を垂らしながら世の中に送り出しているのがこの世界に溢れているマスプロダクツたちなわけである。
でもさ、でもさ、
当たり前だろ。それ……。
役に立つものやいい作品を作るのに人が頑張るの、当たり前じゃないですか?
だって役に立つんだから……。
そこでこの腕時計をもう一度見て欲しい。
なんだ、この腕時計は。
何時なんだ。いまは。
6時ちょうどか。わかんねえよ。
役に立たない、いらない、しょうもない……。
そんなものを作るのにたくさんの大人が頑張っていることに感動する。
素晴らしい。しょうもないものでも経済は回るのか。
向かって右のバナナの腕時計はこれまで使ってきた腕時計だ。
これも素晴らしくしょうもない。
文字盤にまったく文脈なくバナナの絵と文字が書かれている。
そして文字盤は無。
わかりづらい。時間が。
でも俺はこの腕時計が大好きだった。見るとバナナから滋養を感じる気がして……。
俺も将来はしょうもないものを作って生活してみたい。
人の役に立ちたくない。役立たずなのになんか飯が食えてる人になってみたい。
いまの将来の夢があるとしたらそれです。