君はタイスタイル親子を知っているか

f:id:barzam154:20180309215116j:image

君は聞いたことがあるだろうか? タイスタイル親子という言葉を。

私は初めて聞いた。

 

その言葉を耳にした、いや、目にした場所は池袋である。

池袋北口。関東でもとくに治安が悪い地域として知られる地帯である。

だがメシがうまく、安い。

夜に歩くのは怖いがそのリスクを負う甲斐がある街だ。

f:id:barzam154:20180309215328j:image

彼女は池袋晶葉。アイドルで、発明家で、とてもかわいい。あなたはすぐに『アイドルマスターシンデレラガールズ』をやるべきだ。

 

その日の私は珍しくひとり飲みがしたい気分だった。

仕事は繁忙期に差し掛かる時分、1時間残業をし、日は金曜日。そして次の日に短い時間とはいえ休日出勤を控えていた。

ふだんあまりアルコールに関心がない私だが、こんなタイミングで特別夜に予定がないともなれば自然と盃を傾けたくなるものである。

私は池袋に住んでいる。夜の池袋でひとりで飲むとなれば東口に出るものはいないだろう。西、北に出ればいくらでもクズ専用の飲み屋があるのだから……。

 

f:id:barzam154:20180309215748j:image

池袋北口は危険な街だ。半年ほど前には白昼堂々、しかも駅の出口のすぐ近くでレイプ事件があった。グーグルで検索すると「マフィア」「事件」「治安」と並ぶ。

私は池袋に住み始めて4年目になるが池袋の北口にはいわゆるチンピラや不良はいない。いるのはヤクザ、ヤクザの下っ端の風俗のキャッチ、外国マフィアなどである。池袋北口には日本語は少ない。アジアの人間でごった返ししている。だがその分アジア系のいい店も多い。北口は治安がいいとは言い難いスラムだが、今夜の私はこのスラムで王になりたいと思っていた。

 

北口から10分ほどのところにあるタイ料理屋、バーンカオケン。ここで私はあの親子と出会った。

話は聞いていたが来るのは初めてだ。池袋の民には「タイからワープして来たような店だ」「日本語が通じない」として有名な店である。一度来たいと思っていた。今日がその日だ。

 

f:id:barzam154:20180309220635j:image

まずシンハービールを頂く。香りがいい。日本のビールに慣れきっていてたまに外国のビールやクラフトビールを飲むとあんま美味くねーなと感じる時もあるんだがこれは気に入った。さて何を食べようかとやおらメニューを開いたところで彼らは現れた。

 

f:id:barzam154:20180309220750j:image

タイスタイル親子だ。

タイスタイル親子、聞いたことがない。

親子といえば日本の感覚では親子丼だ。例えば鶏肉と卵。例えば鮭とイクラ。

だがこのタイスタイル親子はどうだ。併記された英字を読む。

トーフ ウィズ スパイシーソース。

妙だ。

スパイシーソースという言葉の刺すところはつまるところ唐辛子由来のソースだろう。

だが豆腐と唐辛子は…………他人だ。

次に親子という言葉から考える。

豆腐の原料は大豆だ。そして例えば醤油。醤油も捉え方によってはスパイシーなソースと言えるだろう。エドモンド・マキルヘニーが生み出したタバスコブランドにはスパイシー醤油という商品もあるのだ。

そして醤油と豆腐は……厳密には親子とは言えないかもしれないが血縁関係は深い。間違いなく二親等と言える。そうした関係が日本語とタイ語で入り混じる中、親子と訳された可能性も考えられる。

だが醤油がかかった豆腐は冷奴だ。冷奴はタイスタイルではない……。

 

f:id:barzam154:20180309221547j:image

スタッフに対してメニューを指差し「これをください」と告げる。

加熱を必要としないこの品物はすぐに供された。これがタイスタイル親子だ。

f:id:barzam154:20180309221650j:image

かかっているのはカオマンガイなどに使われるスイートチリソースのようだ。甘辛くて美味しい。だがスイートチリソースと豆腐に血縁関係はない。

この親子は……あの親子はなんなのだろうか?

血の繋がりが無くても、絆さえあれば親子だという事なのだろうか。

 

f:id:barzam154:20180309221830j:image

シンハーが進む。これはパッペッパールォ。ナマズのタイカレー炒めだ。

ナマズは初めて食べるが淡白でうまい。そしてタイカレーがなかなか辛い。

すぐに水を飲みたくなったり口から火が出るような辛さではない。だが少しずつ口がヒリヒリとして来る辛さだ。痛い。そして香りがシンハーとベストマッチしてしまう。うまい。めっちゃシンハーと合う。

海原雄山理論だ。食べ物は産地を合わせた方がバフがかかるというアレだ。

タイカレーとシンハーは強烈に合う。

 

f:id:barzam154:20180309222042j:image

レモングラス風味の焼き鳥。

焼き鳥という言葉から想像する見た目とは全然違うが、うまい。

明らかに焼いて置いておいたのをレンジで温めただけだがうまいもんはうまい。

黒い液体はそのまま舐めても正体がわからなかった。

コクが強くてうまみがあってそこまでしょっぱくない。謎。

 

f:id:barzam154:20180309222201j:image

添えられたピクルスが強烈にうまく、今日一番うまいまであった。しかもニンジンが鳥形なのである。魂斗羅の敵軍みたいだ。

このピクルスを売って欲しいとすら思ったが、カタコトの日本語のお母さんにメニューに無いものを注文する勇気は無かった。

 

f:id:barzam154:20180309222312j:image

以上3品とシンハーメコンハイボールで2400円だった。

まあそんなもんだろう。もっと複数人で来れば安く上がるだろうがひとり飲みとはそういうものだ。

美味かった。また忘れた頃に来よう。

…………しかし気になるのはあの親子だ。

豆腐とスイートチリソース。彼等の関係性はどこにあるのだろうか。本当に彼らは親子なのだろうか。

謎は解けず、心にはしこりが残る。

ラブホテルが立ち並ぶ池袋の街に、私はモヤモヤしたものを抱えたまま消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

サガット(Aureole Remix)

サガット(Aureole Remix)